| 月光―――Moon Light――― 雨が降っている。 黒く淀んだ雲から流れる水が、大地を叩いている・・・。 (何時だったか、雨は天の流す涙だ、なんてセリフを聞いたことがあったな・・・・・・) 男は、鉄格子の付いた窓越しにそれを眺めていた。 ―――何故涙を流すのだろうか?何に泣いているのだろうか? それは悲しみ故なのかも知れない。人間の傲慢さに対する。 それとも――――― 男はそこまで考えて、ふと苦笑を浮かべた。今はそんなことを考えるべき時ではない。そのはずだ。 そう、もっと他の、何か考えるべきことがある筈だ。男は自分の頭の中をくまなく探し回り―――今度は自嘲の笑みを浮かべた。・・・・・・何もない。 別に、ただぼんやりと考え事をする、そのこと以上の価値を見いだせなかっただけで、本当に何もない、と言うわけでもなかった。 たとえば―――この閉ざされた部屋から出ること。 男は、ある部屋にいた。大体広さは三メートル四方と言ったところだろうか。壁の内三つに、鉄格子のはまった窓が付いている。窓の外を眺めても一面の原っぱしか見えはしないが。残り一つの壁には何もなく、ただ灰色の障壁が、重苦しくのしかかってきているように見えた。 天井には光ゴケのような物がびっしりと生えていて、明かりには不自由しなかった。部屋の隅には、食料品と、水の入ったペットボトルが山と積み重ねられている。 そして、部屋の中央にドアがあった。何の支えもなく、ただ突っ立っている、ドアが。 それはどこかの部屋からドアを枠ごと持ってきて、どうにかして立てたようでもあり―――それ以上に、ドアが付いていた壁の方を取っ払った風に見えた。 開けようともしてみたが、開かなかった。鈎穴がなく、ロックするための取っ手もない以上、ドアが錆び付いているのか―――もしくは、彼には到底理解できそうにない、この部屋の唯一のインテリアなのか。どちらにしろ、男にはひどく悪趣味な冗談としかうつらなかった。 何にしろ、男には打つ手がない。そう言うことだった。 ここで過ごすのももう三日になるだろうか。 男はぼんやりとそんなことを考える。もっとも、男が意識している限りでは、の話ではあるが。 何故か置いてあった食料品と水のお陰で、何とか生きてはいられる。 水がなかったらどうだったろうか。 (人ってのは水分の摂取無しじゃ二日程度しか持たないんだったよな。確か) だとすれば、死にかけているか―――もしくは、もうすでに生きてはいないのか。 そう考えると、水があったのは不幸中の幸いではあった。不幸中の、と言うのはある意味で皮肉なのかも知れなかったが。 (何で俺はこんなトコにいるんだ・・・・・・?) 思い直すように、再びぼんやりと、男はそんなことを考え出した。 そんな男をよそに、雨音は少しずつ大きくなってゆく。 黒く淀んだ空からは天の涙が流れ落ち続ける。 ――――――雨が降っている。 Act.1 その日は、晴れていた。雲一つないほどに。 雨が天の涙、と言うのを返すなら、空は満面に笑みを浮かべていた。 男は―――芹沢明は片手に近所の本屋で買ってきたばかりの本を抱えて、機嫌良さそうに道を歩いていた。 「明にーちゃん!」 唐突に声を掛けられ振り向くと、そこに見知った少年が立っていた。確か小学校の五年生だったろうか。今の大人達の殆どがどこかに置いてきてしまった笑みを浮かべて、こちらを見ていた。 明は何か眩しい物でも見るような心境で、そちらに目をやる。 「なんだ。―――か」 少年の名を呼んで、こちらも笑みを浮かべてやる。普通に笑っているつもりでも、少年のそれに比べるには自分でも少しぎこちなさがあったように思えたけれど。 「うん。本屋の帰り?」 「そ。お前も読むか?」 「いいよ。明にーちゃんの本、難しいのばっかだもん」 意地の悪い笑みを浮かべて聞く明に、少年は不満げに答えた。実のところただのエッセイ本なのだが、少年にとっては、そんな物でも『なにやら難しそうな本』に映るらしい。 (ま、確かに字ばっかり、ってのはな) 心の中で微笑を浮かべる。子供の内はこういう考え方の方がいいと、明は考えていた。 「で、お前はこんなトコで一人で、何してたんだ?」 「うん。うちのお母さん、にーちゃん家に来てるんだ。僕も一緒についてったんだけど、にーちゃんいないし、何かよく分かんない話ばっかりで退屈だから、お金もらって本屋行くとこだったんだ」 明と少年は、従兄弟の関係にある。家が大して遠くないこともあって、時々遊びに来ることがあった。 「そっか」 「うん。じゃ僕、本買ってくるから!」 「気ぃつけろよ」 「大丈夫だよ」 別れ際。 こっちに返事をしようと、振り返った少年の背後に、キャンピングカーらしき車の影が見えた。 放っておけば、まず間違いなく衝突するコースに。 気付くと・・少年の居る方向に駆けていた。 体が勝手に動くような・・感覚。 ドンッ! キィィィィィィィィ――――――! 車の激しいブレーキ音を耳にしながら――― 明の意識は闇の中に溶けていった。 男は―――明は、長い回想を終えて、軽く溜息をついた。 (そう、だったよな) そして、気が付くと『ここ』にいた。 立ち上がって、窓の外を眺める。何も変わりはしない。ただ一面の、原っぱがあるだけ。雨が降っているのさえも、変わらない。彼が目を覚まして約三日。少なくとも彼が起きている間中、止むことを忘れているかのように降り続けている。 もう何度、いや何十度になるだろう、などと考えながら、もう一度部屋の中をくまなく探し回る。 どうせ何もないだろうと半ばあきらめながら探し回り―――そして、やはり何もなかった。 再び壁を背もたれにして座り込み、憂鬱に考え事を始める。 ・・・・・・そうやって三日目も過ぎようかという頃。 ふと、雨音が消えた。変わりに窓から、明かりが射してくる。光ゴケとはまた違った、光が。 「月・・・だ・・・」 明は惚けたように、口に出してそう呟いた。 自然と―――自覚せず、涙があふれた。変化をもてたことが、たまらなく嬉しかった。 と。 ・・・・・・ギィ・・・・・・ 背後で、そんな音がした。振り返ると、ドアが少し、開いていた。 何故かなどと考える余裕はなかった。明はドアを凝視した・・・ドアの向こうにはその向かいの風景ではなく、何か違う種の光が射していたのだから。中に何があるかは判然としなかったが、それだけはわかった。 明は殆ど無意識に、ドアを開けて中に入っていった。怪しんでいるような余裕はないのだ。この奇跡のようなことに、なんとしても縋りたかった。 Act.2 灯りを纏うようにして、その空間はあった。 明はドアの向こう側の世界に、そんな印象を覚えた。先程の部屋よりは広いその空間に。 床。机。趣味の良いカーペット。最初は黒い壁かとも思った、光と闇の境界線。ゆらゆらと灯りを映し出し続ける、ランタン。 そして―――人間が『四人』。それが、この今この空間に在る全てだった。 人間の内一人は、明。もう三人は――― 机に腰掛け、何かを言い合っている。それは論議している、と言った方が近く、少なくとも言い争っているようには見えなかった。 一人は、老人。とはいえ背筋はしゃん、と伸びていて、老いた感じはまるでしない。つやがかった蒼い髪に、蒼い瞳をしていた。 もう一人は、壮年らしき男である。どっしりとした、年相応の落ち着いた感じをしている。こちらは、黒髪黒眼だった。 最後の一人は、女性だった。二十代の半ばを過ぎた位に見えた。そして、緑の髪に、緑の瞳。 それぞれが、それぞれの瞳と髪の色に合わせたローブ―――とはいえ、明はローブなどは知らないが―――を着て、明がいることに気付かない様に話を続けていた。 「・・・・・・先程も言った通り、我々は行き詰まっていることは無いにしても、細い道に追い込まれているようなものなのだ」 壮年の言葉にすぐさま老人が答える。 「このままでは最低限の進歩しか望めない。何らかの改革の必要がある。そして、それは決して不可能ではない」 そしてその言葉を継ぐように、今度は女性が語る。 「・・・・・・が、それは容易と言うわけではない。かといってさほど困難でもないのかも知れないが、幾つかの問題がある。最も問題なのは―――」 そこで一度、言いよどむ様に言葉を切った。嘆息するようにかぶりを振り、続ける。 「最も問題なのは、我々に力がないことだ。我々に―――芹沢明に」 「!」 黙ってこれまでの話を聞いていた明は、唐突に自分の名前を出され、息を飲む。それに気が付いたように、三人が明の方を見た。 最初に口を開いたのは、壮年だった。 「・・・・・・君は?」 「・・・・・・」 答えようがなかった。ここで『俺が、芹沢明です』などと答えるのは、間が抜けているもいいところだろう。 言いよどんでいると、老人が納得顔で切り出してきた。 「おそらく、我々の話でも聞いていたのだな。それならば、この反応にも納得がいく。・・・少年。君が聞いた我々の話は一体どんなものだった?」 不思議と言えば不思議な質問に、明は一瞬自分がからかわれているのかと少し訝しがったが、真剣な老人の瞳に、答えを返した。 行き詰まってはいないまでも細い道に追い込まれていると言っていたこと。その為に何らかの改革が必要であること。そして、それが容易ではなく、問題としてあなた達が無力であり、あなた達が芹沢明 ―――つながりがあるかはわかりませんが、俺の名前でもあります―――であると言っていたこと。 明の簡略した話が終わると、今度は女性が話しかけてきた。 「それは、少年。君の中の葛藤なのだよ」 「その通り。我々は、常に語り合っている。その内容は、聞く者によって様々に変わる。そうだな・・・・・・、たとえば、君には我々はどう見える?」 多少面食らいながらも壮年に見たままに答えると、「やはりな」今度は老人。 「我々の姿さえも、見る者によって様々に変わって行く。我々がその者の存在に気が付いたときのみ、我々の話は内容の方は本当のそれに聞こえるのだ」 「もっとも、我々がその者の存在に気付きながら、それでも話を続けたときに限るが」 つまり殆ど不可能と言うことなのだろうと、続けた女性の言葉に明は頭の中でそれだけを納得した。 と、再び壮年が後を継ぐ。 「そう言うわけだ。・・・・・・我々は『語らう者たち』。世界について、常に語り合っている」 それを聞いて、明は少し前言を撤回した。聞けば答えてくれそうだ。 「質問を最初に戻そう。少年―――芹沢君だったか。君は?『どうやってここに入ってこれたのだ?』」 老人の言葉に、明は意識を現状に引き戻された。すがるような思いで事の顛末を語る。もしかすると、何とかなるのかも知れない。 「成る程・・・・・・」 女性はふむふむと頷きながら、結論を挙げた。 「超能力と空間歪曲が併発したのか。凄いと言えば凄いな。そんなもの、ただ道を歩いているだけの人間がいきなり突然変異を起こすより確率が低い」 「?」 疑問符を浮かべる明に、壮年が説明する。 「つまり、君は車にひかれそうになった瞬間、自分の内面に『移動』したんだよ。突発的に能力―――ま、超能力くらいに思えばいい―――を発揮し、自分の世界を瞬間で作り上げて、そこに移動したのだ。現実逃避と形は似ているが、桁自体が違うな。自分の存在していた世界の体ごと移動したのだから」 「君がつい先程までいた世界は―――君の内面だと言うことだ」 「――――――っ!」 続けた老人の言葉に、明は戦慄した。しかし無情にも、女性と壮年が結論づける形で言葉を紡ぐ。先ほどまでと全く同じ、無条件に人を信じさせる、不思議なまでに説得力のこもった声音。 「君が無意識に発した能力で移動するとき、偶然、空間歪曲―――空間のねじれだ。ブラックホールとか神隠しのような物だと思えばいい。出口まで強制的にとばされるが―――がおき、君の能力(ちから)はそれを巻き込んで起こってしまった。結果、君の内面世界は空間歪曲で送られるはずだった先、つまりここに通じるドアを含む世界になった」 「ただし、無理矢理取り込んだドアがまともに開く訳もなく、開かない。 だが、空間に何らかの干渉が起きてドアが開く。そして君はドアを開き、行き着いた先はここ、だ」 「そんな・・・・・・」 あれが、俺の内面世界。 小さく、閉ざされていて、光を取り入れられない面もある。光苔のうすぼんやりとした光しか光源はなく、外では常に雨降りである。外には何も見えず、花すらもなく、ただ雨でよく見渡せない荒涼とした原っぱがあるだけ。三週間かそこらの食料しかない。・・・・・・あれは多分、自分の自我の象徴なのだろう。 「まあ、聞いた限りでは、君はましな方だ」 老人が口を開き、女性が続ける。そして壮年も語る。 「人は誰しも、その心を閉ざしているのだから」 「精神力もなかなかだと思うがな。それは全くの孤独で、意味のない生活でも三週間は食料があれば平気、と言うことなのだからな」 「・・・・・ああ、言いそびれたが、君はもうさっきまでいた世界には戻れないからな」 「空間歪曲を象徴していたドアを閉じてしまっただろう」 「あれは元々こっちの世界の物ではなく君の世界に内包されていた物だからな。向こうから入ることはできてもこちらから行くことはできない」 「能力も、本当にものすごいほどの偶然で起こったのだからな。そちらにも期待はしない方がいい」 「だが、手段もないわけでもない・・・・・・」 「・・・・・・」 「・・・・・・」 老人。女性。壮年。老人。女性。壮年・・・・・・。 明の心境など素知らぬ振りの三人の言葉は、明の耳には入っていなかった。 自分の内面の姿。人はその上に自我を纏い、それを隠すなりして護るが、剥き出しにされた心は驚くまでに弱い。明は自我を素通りさせて裸の心に触れていたのだ。 プライドが邪魔をして判断を鈍らせていた心の広さ。 俺の内面。 真実の心。 オレのナイメン。 偽りのない、心。 オレノナイメン。 荒涼とした、閉ざされた世界。 オレノ―――ナ イ メ ン――― オ レ ノ ――― 「ああああああああああああああああ!」 真実に触れた人間という物も、やはり案外弱い。特に、気付いていながら自分で気付かない振りをしていた物を目の前に突きつけられた人間というのは。 それを突きつけた者は他ならぬ自分自身なのだ。 明は叫んだ。 泣いた。 他に人がいることなど、気にもしなかった。自己嫌悪の気持ちと今までの自分を乗り越える為に、ただ泣いた。 ・・・――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――・・・ 暗い暗い空間だった。黒い闇の中にぽつんと一人の少年がいた。ベッドに座って、ただ、うずくまってしくしくと泣きじゃくっている。見覚えがある少年だった。 あれは・・・俺だ。 僕は心が弱いのかなねえ僕の心はどうなんだろう全部閉じられてておそとがみえないよ外に出たくてイライラして壁をおもいっきり殴ったら手から血が出てきてとてもいたくて泣いても誰も来てくれないどうしてなの外から声だけ聞こえてきてて誰も助けに来てくれないみんな僕が嫌いになっちゃったの僕は何にも変わってないのに外から壁を叩く音がきこえてきてねえどうしてこの壁を壊してくれないのこの壁があったらどんなことになっても僕はヒトリだよねえどうするのどうしようこのままでいいの 『いいわけがあるか!』 声にならない声で、俺は叫んだ。小さな俺が涙でぐしゃぐしゃになった顔をこっちに向ける。 「おにいちゃん、誰?」 『そんな事よりお前は、どうしてこんな所にいるんだ!』 思わず声を荒げてしまう。感情の抑制が利かない。小さな俺は、びくっとしてそれからまた泣き出した。 「だって、だって壁があるんだもん。殴ったら血が出てきたし、外から声が聞こえてきててもみんな叩くだけで壊してくれないし」 『甘ったれるな!』 俺は子供の手を取って、無理矢理立ち上がらせた。 『あの壁を壊せるのは、自分だけなんだ!外のみんなも、手伝ってくれてるけど、結果的に、自分が泣いてちゃどうにもならねぇんだよ!』 子供はさらにぐずる。 「だって、だって、血が出てきたんだよ」 『血がどうした!お前はずっと独りでいたいのかよ!傷つくのがいやだったら、ずっとここにいて一人で震えてろ!』 「傷つかなくちゃ、この壁は壊せないの?」 しゃくりあげながら聞いてきた子供の声に、初めて感情が和んだ。 『・・・ああ、そうだ。傷つくことを恐れてたんじゃなんもできねぇ』 「うん・・・」 『今までの自分を見て悲しむんじゃなく、「いままで損してたな、ちぇ」って位に思ってろ。そしたらきっと、楽しいことが起こる。幸福と不幸ってのは、綱の紐みたいに、交代でやって来るんだ』 「でも僕は、元で選ぶのを間違えちゃったよ」 『それでもそこからまた選択がある。幸福と不幸を連続させて、結果は、最初に判断したのよりもよくなるかも知れねぇ。要は、希望を失わないこった。後悔するのも結構だが、次の選択までそれを引きずるようなことだけは絶対にすんな。幸せな人をうらやむんじゃなく、次は僕だな、って思ってろ。その時自分がどんな状態だったとしてもな』 「うん」 「・・・よし。がんばれよ!そうすりゃ、きっと誰かが微笑んでくれる」 「うん!」 もう一度返事を返してきた昔の俺の頭を、俺はそっとなでてやった。 ・・・――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――・・・ ―――しばらくたつと、明の嗚咽はもう止んでいた。 「・・・・・・落ち着いたかね?」 ごく平然と、壮年が尋ねてくる。明が羞恥に少し顔を赤らめながらも、頷くと、老人が切り出す。 「では、話を続けよう」 「君の今後についてだが」 女性も話しかけてくる。落ち着いたものだ。何故か一定している、話す順番も変わってはいない。壮年、老人、女性。彼らは、自分が泣いていた間中、どうしていたのだろうか。 明の思惑にはかまわず、やはり壮年がまず言い出す。 「結論から言おう。君が元の世界に返ることは、不可能だ」 「正確な数値を教えようか。君の元いた世界の単位で、無量大数の十一乗分の七の確率だ」 大した数値だ。結果にはあまり驚かなかった。何となく予想は付いていたから。そんなことより、現実味が無いと言うのを通り越した、数値のあまりの桁に驚いた。 「が、別の世界になら、行ける」 「どういうことです?」 問う明に、壮年が答える。 「何、簡単だ。君のさっきまでいた世界の中にドアがあったように、ここにもドアがある」 「それをくぐればいい、と言うことですか」 「まあ、そういうことだ」 「どんな世界かわかりますか」 「一度だけは見たが、のどかな村、と言うような感じだったな。君にとっては運のいいことに、住人は人型だ」 「時代は・・・・・・そうだな。中世のヨーロッパと言うところだろう。大分違うが、君の知るものの中では最も近いはずだ」 「で、どうするね?」 「いきます」 問う老人に、明は即答した。もう悩まないことにした。自分の内面世界で雨が止んだのは、心がハッキリとしていたからだと思った。少なくともあの時は、『諦め』と言う感情ではあったが、これ以上無いまでにハッキリとしていた。そのお陰で、あの内面世界から出ることができ、今こうしてここにいるのだから。 だから、もう迷わない。 三人は明の答えに満足げに頷くと、明の目の前の空間を『引っ剥がした』。 その先には、ドアがあった。明は軽い既視感を覚える。そのドアは明の内面世界にあった物と酷似していた。 「ドアを開けるぞ」 言いながらドアを開ける女性に頷いて、明は三人に軽く一礼してから、ドアをくぐった。 Act.3 村の真ん中に出た。 いや、実際にそうなのかは明にはわからなかったが、何というわけでもなく、そんな気がした。 村人達は何処からか突如として現れたドアから出てきた少年を奇異の眼差しで見ていた。ドアは少年が現れるとまたどこかに消えた。ますます不思議だ。 「いきなり不信感を植え付けてしまったかな」、明は心の中で苦笑を浮かべると、どうしたものかと悩みながら辺りを見回す。 と、子供を連れた老人が現れた。警戒の色を解かぬまま、話しかけてくる。 「そなたは、何者じゃな?」 明は再び心の中で苦笑を浮かべる。少し前も似たような質問をされた。 隠しても仕方がないことではあるし、手短に今までのことの内容を語る。 話し終えた頃には、老人の警戒の色も殆ど無くなっていた。 「今の話、とても信じられる物でじゃあない・・・・・・が、おまえさんの眼は嘘はついておらんし、そもそもそんな悪人にも見えん」 明は、真剣な面もちで老人の瞳を見続ける。と、急に老人は相好を崩した。 「その眼が気に入ったよ。ワシの家に住むといい。好きなだけこの村にいたらええ。ワシはこの村で村長をやっとるもんじゃ」 そう老人が言った瞬間、周りの空気が軽くなった。急に、明の周りに人が群がり始める。 「なあ兄さん、あんたがいた世界、ってのの話をしてくれよ!」 「村長のトコより私の家に住みなよ!」 「一緒に酒場行って話そうぜ!」 明は少し戸惑いながらも、どうするか考えていた。と、村長と一緒にいた子供が目に付いた。好奇心に眼をきらきらさせて、明を見ている。ぼやくように、だが決して悪くない気分で、明が呟く。 「やれやれ、どうなる事やら・・・・・・」 エピローグ 堀内正志は、病院のベッドで目を覚ました。 記憶は少し混乱しているが、取り敢えず交通事故でここにいるはずだと言うことだけは、何となくわかった。 すぐそばには、自分を心配そうに見つめる母親と、叔母さんがいた。少し離れたところに、医者もいる。 「正志君は、もう大丈夫です。元々車には当たってないも同然ですからね」 「良かった・・・・・・」 母親と叔母さんが、安堵の溜息をもらす。が、二人とも依然として浮かない顔のままだ。 「どうしたの?」 問う正志に、口を開こうとした叔母の代わりに、医者が言う。何か一瞬ためらった様だったが、正志はあまり気にしなかった。 「明君が、消えてしまったらしい。君をかばった瞬間、霞のように、フッとね」 「何言ってるの?明にーちゃんはちゃんといるよ」 「?」 疑問符を浮かべる叔母さんに、言う。 「夢を見てたんだ。明にーちゃん、楽しそうにしてた」 そう。正志は夢を見ていた。 その中で、すっかり村にとけ込んだ明は、それなりに楽しそうに過ごしていた。 あとがき ふう・・・終了です。 一応のけりはつけましたが、彼の物語はこれからも続いて行くことでしょう。私がそれを描くかどうか、と言うのはわかりませんが。終わった後に、登場人物やらのその後がどうしようもなくなる様な終わり方は、何か無責任なような気がしてあんまり好きじゃないので。別にそう言うのを否定する訳じゃありませんが、私はそう言うのはあんまり書きませんよと言う話。ま、それが自己流という事で。 そう言えば私はちゃんと最後まで描いてあとがきをつけるというのは初めてのような気がするなぁ。途中まで描いて最後の方の構想練って、あとがき先に描いてそれっきり、ってのならあるんですが。(おいおい) 所でこれを書き終えて編集T氏に見せたところ、『いつもと文体が違うね』との返事。そういやそうかな?最近は軽い話ばっかり描いてるからなあ。ちなみに題は編集T氏命名。 今回はこんな重い話になりましたが、できれば感想下さい。参考にしたりしますので。 で、反省点。反語的な倒置法がちょっと多すぎたかな?ってことです。よく見ると序盤なんかほとんど三行おきに反語、反語、反語の嵐。ううむ。反省せねば。 ・・・何かほとんど箇条書きみたいなあとがきになっちゃったなあ。まあ気にせずに。 じゃまた! あとがき2 はい、HP番のあとがきです(笑) 「あとがき1(笑)」にもあるように、私がはじめて最後まで書いたお話なんですよねぇ〜・・これ。 確か中3か高1の時だったかな?こーゆーのが好きだった・・っていうか書いてた時代が、高3までだから、まぁ結構な月日を費やしてたわけですねぇ(しみじみ) もしお楽しみいただけたなら、光栄です☆ |