「病院・医院で鍼灸師が働くことの意義について」   

 

山田鑑照 

 

    1983年(昭和58年)に創立された明治鍼灸大学(現明治国際医療大学)の開学精神は「医師の下で仕事ができる鍼灸師の育成」であった。私は当初から、この開学精神に共鳴を覚えていた。この頃、私は、整形外科で鍼灸治療を1年半させて頂く機会があり、医師との連携の重要性、患者さんが鍼灸を求めていること、病院・医院で鍼灸師が働く意義を深く考えていた。病院で鍼灸治療を開始して、しばらくして、医師から「患者さんたちが、鍼灸はいいね、といって喜んでいたよ」と云われて、チャレンジして良かったと安堵したことを覚えている。

  その後、昭和60年に名古屋市立大学医学部第一解剖学教室(渡仲三教授)、平成元年に名古屋大學医学部第二解剖学教室(星野洸教授)、平成9年以降、名古屋市立大学第一解剖学教室(曽爾彊教授)に研究員として籍を置いて四半世紀が過ぎた。名市大では非常勤講師にもさせて頂いた。名市大において解剖学的経絡の研究、名大において鍼灸作用機序の研究(神経免疫学的研究)で学位も取得した医学部において3人の教授に御指導を頂き、学会発表並びに論文発表をさせてもらってきた。幸いに、3人の教授は鍼灸に理解が深く、研究の後押しをして頂いた。

  医学部解剖学教室において鍼灸研究を進めて行くうちに、鍼灸の研究は、鍼灸師が鍼灸臨床を通して得ている明らかに確認される効果について、科学的に必ず説明できるはずだと思って組めば、研究の扉は開かれるものだということを実感してきた。更に、いつかは、どこかの研究者がやるであろうが、これを鍼灸師がやることに意義があるとも思ってきた。

   長年に渡り、名市大の曽爾教授に、教室において鍼灸治療をさせて頂いた経験がある。教授への治療中に、他教室の教授が来訪されたが、そのまま治療を継続するように云われ、来訪された教授に鍼灸について聞かれたので説明すると、「そういうエビデンスがあるのか」と違和感なく受け入れてもらったことがある。

 こうした背景もあり、病院・医院においても、医学部においても、鍼灸というものを理解し受け入れてもらえると思っている。鍼灸師が病院・医院において鍼灸治療を行うことは、鍼灸師自身が、医学的なレベルを上げることができ、その後開業したときに、病院・医院との連携を創りやすくなり、患者さんへの理解を深めることができるようになるとてもいい修行の場でもある。

 しかし、鍼灸師が目指すべきことは、病院・医院において鍼灸治療をすることだけでなく、特定疾患について症例数を重ねて鍼灸治療を行い、西洋医学単独の効果と西洋医学と鍼灸治療併用の効果を比較し、西洋医学単独より鍼灸治療併用の方が効果的であることを実証し、学会発表を行い、論文を書き残すことであると考えている。これはあらゆる診療科において可能であると思っている。また、これを行えるのは、鍼灸師しかないであろう。これからの鍼灸師は、病院・医院で仕事を行い、鍼灸師のレベルをあげ、鍼灸の有効性を実証するということを目指すべきであろう。また、それが可能になる時代になったと云える。