☆鍼灸治療による気胸の発生について☆  
「肺生検気胸発生文献からみる鍼治療気胸発生率の検討 
       医道の日本第63巻第9号 (医学中央雑誌20005017135) 

上記論文を発表して久しいが、鍼灸治療において、新しい気胸症例に遭遇した。

患者さんは、痩せ気味で筋力のない40歳の女性で、鍼灸治療をしてその夜に気胸になったとのことで、近くの医院に受診し、左肺気胸と診断され、日赤の緊急外来に紹介された。入院翌日に左前胸部より胸腔ドレナージ(左肺の抜気)をしてもらった。翌日に右も気胸になり抜気してもらったとのこと。上記論文中の鍼灸治療をして気胸になった患者さんは抜気だけでは足りずに開胸手術を行わないといけない程の重症であったが、本症例は、安静では回復できずに抜気してもらわないといけない気胸であった。

その病院で診断書に肺の穴の開いた部位を書いて貰うように依頼した。その診断書によると「気胸の肺瘻部位(穴の開いた部位)はCTによっても同定されなかった。」、「鍼灸治療との因果関係は不明である。」とのことであった。

気胸とは、何らかの原因で肺に穴が開き、そこから肺の外側の胸腔内に空気が漏れ、肺がしぼんだ状態になり呼吸がしにくくなり、苦しくなることをいう。発症の原因により自然気胸と外傷性気胸に大きく分けられる。自然気胸とはいえ、開胸手術を要する重症例も少なくない。

自然気胸は、寝ていても、安静にしていても、運動していても、肩を叩かれても起こることがあるとされ、何をしていても起こるとされる。自然気胸は胸膜にできたブラ(図1)に穴が開き、胸腔内に空気が溜まり肺を圧迫して呼吸がしにくくなるものである。気胸を多く扱っている病院では、鍼治療とは全く関係のないと思われるこの様な症例は多くあるので、鍼治療によりブラに穴が開き気胸になったとは断定できないのであろうと思われる。

肺生検を行ったときに気胸が発生することはしばしばある。これは医原性外傷性気胸という。太い肺生検針(外径1.2mm)で37%に気胸が発生し、細い肺生検針(外径0.56〜0.51mm)で8%に気胸が発生したとされる。鍼治療に使用される鍼は0.3mm前後であり、肺の組織を採取しないことから、鍼による気胸の発生率は、あったとしても、8%をかなり下回るものと思われる。(上記論文引用)

気胸は寝ていても、安静にしていても起こるとされるので、本症例は、たまたま鍼治療をしている安静状態の時に、穴が開くタイミングにあったブラに穴が開き気胸になったものと考えられる。

鍼灸業界では、鍼灸治療により気胸になったと騒ぎ立てる傾向にあるが、鍼灸治療により気胸になったと断ずることは慎重でなければならない。


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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・肺にできた、いつ破裂してもおかしくないと思われるブラ(図1)