子どもは重さの保存をどう認識していくか
@三つの操作(可逆,相補,同一)と実験器具 (実践例1)
 【事例】 ものの重さとてんびん  4年生
[授業記録]
 (1) てんびんの支点から等距離の位置に糸をつりさげます。そして、おもりを
  上の図の位置につりさげるとてんびんはどうなると思いますか。
   岩塚小4年3組 35人
 C:右に傾く。 11人
 C:左に傾く。 19人
 C:傾かない。  5人
T:左に傾くと考えたわけは何ですか。
C1:人間の乗るシーソーと一緒で片方が前に乗り、
  もう一人が後ろに乗ると前に乗った方が上にくる
C2:ぼくは変わらないと思う。クリップは両方へつけてあるし、重さは変わ
  らないんだから傾かないと思う。
T:シーソーは乗る人の重さが同じでも、乗るところが違うと確かに傾くね。
C2:それは違うと思う。
C3:左へ傾くと思う。シーソーと同じだと思う。
C4:C1さんと同じで、人間が前に乗ると後ろに乗っている人が重くなって、
  そっちに傾くから左へ傾くと思う。
T:右へ傾くと思う子はどうですか。
C5:上にあると体重が重くなる。   C:エー。
C5:しばった所に近い方が重さが重くなる
T:なるほど。しばった所に近い所の方が力が入るわけね。
  ほかには?シーソーが主流だね。
C2:シーソーとは違うと思う。
C6:クリップとクリップは同じ重さなんだから変わらないよ。
C2:C1さんの意見は、ひもを中へもってこれば、こっちへ傾くけどひもは変
  わらないのでシーソーとは違うと思う。
C:ア・・・・・(同意的なため息)
C7:それは違うんじゃない。 ←《あくまでも自己中心的!》
C4:今考えたんだけど、シーソーに同じ人が乗っていて、片方が足をのばし
  て、片方が足を縮めても重さは変わらないから、これもそれといっしょで
  傾かないと思う。
T:あれ。考えかわったの。これは実験してみるとわかるね。
  もう一度予想してください。
C:右に傾く。 3人(11人) 
C:左に傾く。17人(19人) 
C:傾かない。16人( 5人) 
 
    実験して確かめてみよう。

:ワア、傾かない。重さは同じなんだ。

T:このクリップの位置を代えるとどうなると思いますか。
C:・・・・・・・・・・  
 (2) おもりの位置を自分でいろいろ考えて試してみましょう。
『一回目の実験計画の結果予想と人数』





 
 予 想 わけ無 わけ有

重さは変わらないから。
下の方が重くなるから
傾かない  9人 18人
傾  く
 
 7人
 
 2人
 
          ↑
        自己中心的な認識
 
   『自らの考えで試した後のまとめ』
実験結果をまとめたもの 
模索的な認識
・おもりの位置を変えてもつりあう。
 16人
重さの不変性にふれたもの
操作的・内省的な認識
 
・おもりの重さは同じなので、どこ
 におもりをつけても傾かない。 
 15人
位置関係にふれたもの
自己中心的な認識
・クリップが下にある方へ傾く。 
 4人
(見ること、事実を知ることへ)
 
 [抽出児の活動と考察]
 
  抽出児C 話し合いの段階で重さの普遍性に気づいた。    
○ C1さんと同じで、人間が前に乗ると後ろに乗っている人が重くなっ
↓てそっちに傾くから左へ傾くと思う。
○ 今考えたんだけど、シーソーに同じ人が乗っていて、片方が足をの
 ばして、片方が足を縮めても重さは変わらないから、これもそれとい
 っしょで傾かないと思う。
 
 【考察】
  この児童は、シーソーで遊んだ経験から、足をのばしたり、縮めたりといった
 可逆操作を思考によって行うことができ物の重さの保存認識ができている。これ
 は、この段階の児童には、話し合い活動が有効であることを示している。
 その後の実験活動は、自らの考えを確かめるものになっている。
  抽出児C 実験をしている段階で重さの普遍性に気づいた。
も と の 実 験 : 

{予想}傾かない。重さは同じだから。

{結果}傾かない。

        

自分で考えた1回目の実験 :

{予想}右に傾く。右が下だから。

{結果}傾かない。
 

自分で考えた2回目の実験 :
              
{予想}傾かない。・・・・・・ 

 {
結果}傾かない。
 
自分で考えた3回目の実験 :

{予想}傾かない。同じ重さだから。

{結果}傾かない。
 
 【考察】
  この児童は、最初左側のクリップが下にあった実験では、結果を「傾かない。
 重さは同じだから。」とまとめている。しかし、自分で右側のクリップを下に
 する、という条件の変更ののち「右にかたむく。右が下だから。」と答えている。
 つまり、条件を反対にすることにより、思考の逆戻りが起こった、といえる。
 この段階では、この児童は試行錯誤的認識段階と考えられる。次に再び、
 左クリップを下にして、「傾かない。」と予想した。しかし、そう考えた理由はなく、
 経験的に正しい、と認めている段階といえる。
  こうした経験を積み重ねるなかで「そうか。重さは同じなんだ。」ということに
 気がつき、再び、右クリップを下にして「傾かない。重さは同じだから。」と結果
 を必然として認めている。ここで、この児童は物の重さの保存を認めることが
 できたと考えられる。
  2つの事例から、児童が物の重さを必然として認めることができたのは次の理由
 によると考えられる。
@ 教材・教具が可逆操作が可能であったこと。
A 教材・教具が児童の認識を深める方向に変化させることに目を向か せられる構造になっていたこと。
B 基本となる現象を提示し、変化させるべき条件を明らかさせたこと により、解決の構想まで見通した問題把握がしっかりできたこと。
 このように4年生の段階では、三つの操作が可能な教材・教具を活用させ、
それを操作させることによって実験結果が法則として認識されていくと考えられる。
 
 
 
 
 
         

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