郡上踊りの由来



踊り種目のいわれ



民謡は土から生まれる、といわれているが、郡上おどりも山紫水明の里から、

そこに住む人たちによって生まれたものである。



 私たちの祖先が、その時代における生活や感情を、

素朴に唄い踊った民謡や踊りは、その源流がどこにあるにせよ、

幾多の変遷を経て人々の息吹きのなかに育てられ、

なお今日の、現代に生きる者の胸にもひしひしと迫ってくるもののあるには、

言いしれぬなごやかさに郷愁を感ずるからであろう。



郡上踊りの起源はさだかではないが、400年ほどの伝統をもつといわれている。

徳川三代将軍家光公の時代、ときの郡上領主であった遠藤左馬介慶隆は、

八幡城の戦いや、天下分目の関ヶ原合戦(慶長5年、1600)の後、

その軍功を徳川家康に認められて、古領である八幡城へ復帰し、

一郡二万七千石の領主となって、城郭を修理し庶政を整え、

慈恩寺の開基や愛宕神社の勧請につとめました。



また、戦雲ようやく治まったなかで、寛永4年(1627)

郡内における人心の安定と平和を楽しむために、

その当時、所々方々で行われていた盆踊りを、

宮や寺の境内あるいは門前町などで、

踊り振りをよくするように奨励させたと伝えられている。



遠藤氏四代目の備前守は、時の将軍家綱の覚え目出たく、

寛文7年(1667)幕府に請うて八幡城の大改築に当った。

また、城下町の整備に尽くして、

願蓮寺や最勝寺を近郷から八幡へ移し、洞泉寺を建立した。

なお、町振りを良くした町家に褒美を与えたりして、

城下町としての要件を備えたところから、

ここに始めて城主格から城主としての待遇を受けることになった。



さらに書画に秀でた文人であり、民衆の和楽にも深い親しみと理解があったとされているから

ようやく整然となった町並みで

士農工商の融和をはかるために盆踊りを奨励されたので、

踊りはますます盛大となり、

領民に心のよりどころを与えてきたものと思われる。



幕末のころの城下では、七大縁日の盆踊りが恒例になっていた。

七大縁日とは、旧6月16日八坂神社の天王祭(上ヶ洞)

7月1日大乗寺の三十番神祭(向山)

7月7日洞泉寺の弁天七夕祭(尾崎)

7月14日から16日までの盂蘭盆会(橋本町、新町)

7月24日枡形のうら盆地蔵祭(枡形町)であり、

この山深い奥美濃の純朴な里人たちによって、

歌い継がれ踊り続けられてきた。

これは、山間地における唯一の社交の場であり、

また最大の娯楽でもあったからであろう。



現在では、信仰と和楽をもとめる人たちの願いをあつめて、

あの町この町に縁日の祭りと踊りが立ち、

7月中旬から9月初旬にかけて

「郡上おどりの夕べ」が繰り広げられている。

老若男女の踊り手が、ときには数千人の一団となり、

音頭や囃子にあわせて手拍子を揃え、

無心に踊りぬく姿はまことに壮観なものであり、

ことに徹夜で踊り明かす盆の4日間は、

七重八重のわがひろがり、郡上おどりならでは、見ることも、

また味わうこともできない一大絵巻である。



この郡上おどりは、往年の画伯・岡本一平先生の言われたように

「見る踊りではなく一緒になって踊り楽しむもの」である。

誰でもどんな服装でも、気軽に輪の中に入って、

手や足を動かしているうちに、踊れるようになるのが、

郡上踊りの面白さであり魅力であるとされている。



また踊り種目も多く

「古調かわさき、かわさき、三百、春駒、ヤッチク、       

  げんげんばらばら、猫の子、甚句、さわぎ、まつさか」

と10曲を数える。

このうちの7曲の配列をみて、

東京大学の教養学部・体育史の石津政雄先生が、

科学的に解明され

「郡上おどりは運動生理学上きわめて合理的である。」と発表されている。

すまわち、準備運動の「かわさき」

本運動の「三百、春駒」

骨休めの「ヤッチク」を中に

最高の「げんげんばらばら」から「猫の子」へ

整理運動の「まつさか」へと、ひとまわりするようになっている。

しかしこの順番は、必ずしも一定したものではなく、

その時の踊り場の調子を見て、

硬軟・緩急の踊り種目を組み合わせてゆくもので、

夜明かしで踊っても楽しくおどれ、

音頭取りも囃子方もなお踊り手も、

ともに疲れることのないように仕組まれており、

古老や先達の編み出した最高の演出である。



とおい祖先から伝承されてきた、

この素朴にして心豊かな文化遺産を、

誇りある郷土民謡として守り育てるとき、郡上おどりは、

山と山とに囲まれたこの土地の習俗とともに、

郡上を訪れる人たちの旅情かきたててやまないだろう。



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資料提供(勝手にして頂きました(笑)):郡上おどり保存会発行 「郡上おどり」