ウィーン旅行記

ウィーン旅行記 (2015年)


1.出発からウィーン到着


お盆休みにどこへ行こうなんて考えていたら、モーツアルトが聴きたいという嫁さんの意見で、ウィーンに行くことに決まりました。ただ、なかなかちょうど良いツアーはなく、飛行機を乗り継いで往復することを考えると、8月12日〜16日の5日間では、ウィーンでの実質滞在は2日間しかないという強行スケジュールとなってしまいました。まあ、「南の島でゆっくりとして、一日中何もしない」などという旅行は、どっちみち性格的にできないので、いくら検討しても、こんな日程しかないのかもしれません。

8月12日朝、セントレアを出発し、フィンランド航空で乗り継ぎのヘルシンキ空港へ向かいました。フィンランドへは7年前に来たことがあるので、何となく懐かしい気分です。ヘルシンキ空港はハブ空港にしてはこじんまりとしていて、落ち着いた雰囲気のある空港ですね。ここからウィーン行きの飛行機に乗り換えて、ウィーン空港へは1時間半と、それほど遠くはありません。

ウィーンのホテルに着いたのは現地時間の20時半くらいでしたが、サマータイムのせいか、まだかなり明るかったです。お腹が減った気もしたけど、ウィーンの町は、レストランも含めほとんどのお店は7時くらいに閉まってしまい、気の利いた店はどこもやっていません。考えてみれば、ウィーンの20時半は日本時間では翌日の午前3時半ですから、疲れたし次の日に備えてすぐ寝ることにしました。

2.シェーンブルン宮殿とシュテファン大聖堂


初日の午前中は、シェーンブルン宮殿に行くガイドツアーです。さっそく朝早く起きて、待ち合わせ場所のアルベルティーナ美術館(オペラ座の斜め裏)に向かいました。地図で見ると、ホテルから直線距離で1kmぐらい、地下鉄でも1駅分なので、歩いて出かけることにしました。

フィンランド語の方は、キートス(=ありがとう)以外まったく分かりませんが、ドイツ語は、分からないなりにも知っている単語がチラホラあるので、道路標識を見ていても、ヘルシンキよりは何となく安心感があります。歩いている途中に「Beethovenplatz(ベートーベン広場)200m」という標識があり、ちょっと立ち寄ってみると、広場の真ん中にベートーベンの大きな彫刻がありました。ウィーンにはいたるところに大きな彫刻がありますが、この像も1880年完成ということで、結構古いものです。

今はスマホの地図があるので、本当に便利ですね。そんなところに立ち寄っても、何となくフラフラと歩いて行っても、スマホを見ていれば、ちゃんと目的地に着けます。アルベルティーナ美術館の横では、日本人ガイドの方が待っていてくれて、一行約10人が車に乗り込み、シェーンブルン宮殿に向かいました。

シェーンブルン宮殿は、マリアテレジアの時代に完成したロココ様式の美しい宮殿で、ハプスブルグ家の離宮として使われていたものです。全部で1441室あるうち一般公開されているのは40室だけなのですが、それでもガイドさんの説明を聞きながら回ったら1時間かかりました。宮殿の内部は本当に素晴らしいですし、庭園もすごいのですが、全部回っていたら1日以上かかるので、お昼少し前にウィーン中心部に戻ることになりました。ネットで頼んだガイドツアーなのですが、帰りはガイドさんと一緒に皆で地下鉄に乗って帰るという不思議なツアーです。ただ、地下鉄の乗り方がわかったことは、ひとつの収穫でした。

お昼ごはんは、あれこれ見回して、カフェ・モーツァルトというお店に入りました。お店と言っても、席のほとんどはオペラ座裏の道路の上にあります。僕はチキン、嫁さんと娘はラザニアを頼みましたが、とても美味しかったです。

食後、まだ午後のガイドツアーまでには時間があったので、シュテファン大聖堂を見に行くことにしました。オペラ座からは数百mで、歩いてもすぐのところにあります。シュテファン大聖堂は14世紀に建てられたゴシック様式の聖堂で、塔の高さは世界第3位。モーツァルトが結婚式をあげたことでも知られていますが、ステンドグラスの美しい、素晴らしい大聖堂です。

そこから再びオペラ座の方へ戻ってきましたが、この日はほんとうに暑かったです。ウィーンで35度を超えることはめったにないらしいのですが、少し前から連日最高気温は37度で、ホテルで見た朝のニュースでも異常気象だと伝えていました。空気が乾燥しているので、日蔭に入れば日本ほどは暑い感じはしませんが、出た汗がすぐに蒸発してゆくので、どれだけ水分をとっても追いつかない感じです。

3.ウィーンの森の観光


午後のガイドツアーは全部で7人、ガイドさんと一緒に車に乗り込み、出発です。ウィーンの森の観光ツアーというのだから、この暑いのに山歩きかと思ったのですが、そうじゃなくて、ウィーン郊外の森林地帯に点在する観光スポットを巡るというものでした。

シューベルトが「菩提樹」を作曲した建物、リヒテンシュタイン城、ハイリゲンクロイツ修道院、オーストリアハンガリー帝国の王子ルドルフが自殺(マイヤーリンク事件)した跡に建てられた教会、そして最後にゼーグロッテというヨーロッパ最大の地底湖に行きました。

地底湖は、石灰岩の地下採掘場に水が溜まったもので、暗い洞窟の中を、船でぐるっと一周してくれます。夏でも気温は9度と寒いくらいのはずですが、外があまりにも暑かったので、ちょうど涼しいといった感じでした。

4.クアサロンのウインナワルツ


午後のガイドツアーから戻ってきたら、夜のコンサートまで、ゆっくり晩ごはんを食べている時間が残っていませんでした。そこで、ホテルに帰る途中にあったスーパーマーケットで、パン、牛乳、ヨーグルト、野菜、チーズなどを買い込み、ホテルの部屋で腹ごしらえ。腹が膨れたところで、20時15分から行われるコンサートに出かけました。すごいハードスケジュールです。

コンサート会場は、市立公園の中にあるクアサロンという建物で、ホテルから歩いてすぐのところです。市立公園の中には、シュトラウス、ブルックナー、シューベルトなどの像がたっているらしいのですが、ネットで申し込んだバウチャーをチケットに換えなければいけなかったし、残念ながらちょっと見に行っている暇はありませんでした。

クアサロンのコンサートは、大部分はウィンナワルツで、少しだけモーツァルトも入っているという感じのプログラムでした。ワルツばかりかと思えば、オペラの一部(シュトラウスのこうもり)、バレーダンサーによるワルツのダンス、モーツァルトもトルコ行進曲やアイネクライネナハトムジークなど、ほとんどよく知っている曲ばかり。そして、最後はラデツキーマーチを観客の拍手とともに演奏して締めくくり。シュトラウスは、クラシックの中ではやや軽い音楽とは言われるけど、本当に楽しい時間が過ごせて、ウィーンまで来て本当に良かったなという気分でした。

5.ベルベデーレ宮殿と王宮


2日目は、特にガイドツアーは申し込んでなかったので、市中の観光スポットを地下鉄やトラムであちこち回ることにしました。まず午前中の最初は、ベルベデーレ宮殿です。地図で見るとホテルから600mくらいだったので、歩いて行くことにしました。ちょっと歩いたら、それらしき建物に着いたけど、どうも様子が違います。娘がそこにいた人に聞いたら、少し先を左に曲がったところだと教えてくれて、宮殿の広い庭園内に入ることが出来ました。あとで地図をよく見ると、その建物はブルックナーが晩年を過ごした家でした。最近、耳が遠くなったせいか、頭がボケてきたのか、どうも英語のヒアリング力が落ちてきたのですが、娘が活躍してくれるので助かります。

ベルベデーレ宮殿は、もともとハプスブルグ家に仕えていたプリンツ・オイゲンが建てたもので、その後ハプスブルグ家のものとなり、現在は美術館になっています。目的は、その上宮の方にあるクリムトやシーレの絵を見に行くことだったのですが、大きな美術館だけあって、それ以外にも恐ろしいほどたくさんの絵が並んでいました。庭園も広くてとても素晴らしいものでしたが、何よりも宮殿そのものが、ウィーンで見た宮殿の中で一番美しいと思いました。

次はウィーン王宮(ホーフブルグ宮殿)です。トラムで町の中心部に出て、そこから王宮に向かいましたが、着いてもよく分かりません。いったいどこが王宮なのか地図を良く見たら、結局、周りが全部王宮でした。ハプスブルグ家から神聖ローマ帝国、オーストリア・ハンガリー帝国と640年間王宮だった場所なので、増改築を繰り返していて、ものすごい規模の建築群です。

全部見ていたら日が暮れるので、旧王宮だけ中に入ってみました。膨大な数の金銀の食器類、室内調度品などが展示されており、公開されているそれぞれの部屋は、いずれも素晴らしいものばかりです。ただ、歩いても歩いても終わりが無く、やっと外に出たときには、もう頭がボーっとした感じでした。次にオペラ座へ行こうと思ったのですが、スマホを見てもどちらなのか良く分かりません。王宮中庭で途方にくれていると、ちょうどそこにお巡りさんが居て、方角を聞いたらとても親切に教えてくれました。

6.オペラ座と美術史博物館


オペラ座のガイドツアーは1日2回で、事前予約できないので並ばないといけませんが、何とか13時からのガイドツアーのチケットを買うことが出来ました。ガイドツアーは、英語、ドイツ語、フランス語、イタリア語、スペイン語、日本語とあるのですが、建物の中に入ってみると、日本語ツアーの人は50人以上いて、少なくともスペイン語やイタリア語のガイドツアーよりは、はるかに多かったです。日本人観光客って本当に多いんですね。

ガイドさんは、日本語ペラペラのオーストリア人で、とてもユーモアのある人でした。見学ツアーですので、観客として入っても見れないような、舞台裏や国王の控室など、あちこち見て回ることができ、とても面白かったです。オペラも見たかったなとは思いましたが、そもそも7・8月は、オペラ座はオフシーズン。それに、オペラを見たら少なくとも3〜4時間はかかるので、やっていたとしても、弾丸スケジュールの旅行では、ちょっと時間的に無理かと思いました。

そろそろお昼ご飯の時間ですが、この日も最高気温37度の快晴で、嫁さんや娘は疲れて食欲も無く、カフェでパンとコーヒーということになりました。何というカフェか忘れましたが、ヨーロッパでは珍しく、水が付いていました。

最後は、ウィーン美術史博物館とウィーン自然史博物館で、王宮からは少し南に行ったところにあります。両方とも1890年前後に建てられた建物で、外観も素晴らしいものがあります。目的は、美術史博物館の2階にある、ブリューゲル、デューラー、ヴェラスケス、フェルメールなどの絵でしたが、ヨーロッパの古い美術館を侮ってはいけませんね、中に入ったらそれ以外にも恐ろしいほどの数の絵が所狭しと並んでいて、どれだけ歩いても出口に到達しません。以前、トレド美術館に行ったときに、ガイドさんが「大きな美術館や博物館に行くときは、見るつもりの絵を決めておいて、それを見たらすぐに出口に向かうつもりでないと、収拾がつかないですよ」と言っていましたが、本当にそうですね。1階と3階は最初からパスの予定でしたが、結局、広場の反対側にある自然史博物館も写真だけ撮って帰ることにしました。

まだ夕食までは時間があったので、オペラ座の方へ歩いていったら、地下鉄のカールスプラッツ駅のところで、30代ぐらいの中国人女性2人組に、道を聞かれました。「シュテファン大聖堂ってどちらの方?」と言いながら、大きな地図を広げるのです。何か変な雰囲気があったので体を引くと、僕のウエストポーチのジッパーが半分開かれています。睨みつけてやったらそそくさと逃げて行きましたが、プロのスリですね。本当に危ないところでした、あと10秒気付くのが遅かったら、財布を盗られていました。

スリにあいそうになって落ち着かない気分でしたが、気を取り直して、音楽の家(Haus der Musik)を見に行くことにしました。この音楽の家は、15世紀からある古い建物で、ウィーンフィルの初代指揮者が住んでいたこともある由緒ある建物です。ただ、内部は近代的に改装されていて、まるで科学館のような雰囲気です。モーツアルト、ベートーベン、ブルックナーの自筆原稿(たぶんコピー)が展示されているかと思えば、バーチャルスクリーンに向かって指揮が出来たり、ワルツをコンピューターソフトで作曲できたりと、子供たちも楽しめるような構成になっていました。

7.楽友会館でモーツアルト


夕食は、オペラ座の隣にあるブリストルホテルのレストラン。このホテルは、1892年に建てられた、ウィーンを代表する高級ホテルのひとつ。前日はスーパーマーケットの買い物で済ませたけど、今日は、ちゃんとしたところですね。料理も素晴らしかったし、雰囲気も良かったし、さすが高級レストランは違いますね。最後に、コーヒーを頼んだのだけど、ウィーンにはウインナコーヒーはないので、カプチーノ。そういえば、朝にはホテルでウインナーソーセージを食べたけど、それも、こちらではウインナーとは言わないし、日本人は、適当にウィーン風という名前を付けるから、ややこしい。

さて、そこから歩いて10分くらいのところにあるウィーン楽友協会ホールが、今日のコンサートの会場です。1870年に建てられた古い建物で、大ホールは黄金ホールと呼ばれ、とても荘厳な感じです。見上げると、確かにホールの壁はいたるところが金色に輝いています。建物の天井と床下には空間が設けられており、それによって弦楽器の響きを調節しているのだそうで、世界屈指の響きを持つ、素晴らしいホールです。

また、ウィーンフィルハーモニーの本拠地でもあり、ニューイヤーコンサートや定期演奏会が開かれるすごいところでもあります。ただ、そういう有名な演奏会は、地元の人がシーズン席で買い占めていて、一般人には回ってきません。今日のコンサートの演奏は、ウィーン・モーツァルト・オーケストラといって、5月から10月の間、観光客向けに毎晩開かれているものです。演奏者は皆、モーツアルト時代の衣装やかつらをかぶっており、まるで18世紀に戻ったかのようです。ホールは世界でも指折りの響きを持つ有名なホールですし、演奏も、ウィーンフィルのメンバーなのかどうかはよく分かりませんが、かなりレベルの高いものでした。

ただ、観客のレベルが低いのが気になって仕方がなく、前半はあまり楽しめませんでした。少し前では、しきりに足を組んだり戻したりする人、貧乏ゆすりしている人、プログラムをうちわがわりにしてパタパタしている人。さらには、前の方で演奏中なのに何度も立ち上がって写真を撮る人。後ろでは、曲に合わせて鼻歌を歌う人。まあ、芸術を楽しみに来たのではなくて、物見遊山に来たのだから、みんなそれぞれに楽しめば良いのだろうけど・・・。

後半は、気を取り直して演奏を聴くのに集中し、ウィーンの素晴らしいクラシック音楽を十分に堪能しました。曲は全部モーツァルトのもので、交響曲40番、アイネクライネナハトムジーク、ドンジョバンニ、フィガロの結婚、トルコ行進曲など、有名どころばかり。アンコールでウィンナワルツを2つやって、お終いとなりました。

8.ヘルシンキ経由で名古屋へ


ウィーンの観光スポットは、ひとつの建物の敷地面積がとても大きく、それでいて比較的近くに固まっているので、今回の旅行は、地下鉄やトラムを使う機会がやや少なかった気がします。本当に充実した2日間でしたが、ウィーンの人たちも経験が無いというほど暑い中を朝から晩まで歩き回り、はっきり言って疲れました。お土産は、スーパーマーケットでチョコレートなどを買い込んで終了。空港で買うより半額ぐらいですし、そもそも地元の人が行くスーパーマーケットは、その都市の生活感が溢れていて、とても面白いです。

3日目の朝は、8時に出発して空港へ。ヘルシンキで乗り換えて、帰ってきました。よく考えたら自分のお土産は何も買ってなかったので、ウィーン空港でポロシャツをひとつ、ヘルシンキ空港のムーミンショップでスナフキンの置物ひとつ、それからフィンランドのビール半ダース買いました。嫁さんや娘は、マリメッコなどいろいろ買っていたようですが、空港って、あまり買うようなものは置いてありませんね。名古屋には、日本時間の8月16日朝の8時半に到着。翌日から仕事だけど、頭がぼーっとしたままかも。