バンスリ(Bansuri)に魅せられて H22年
皆さん、バンスリという楽器をご存知でしょうか。竹でできた横笛で、北インドからネパールにかけての地域に広がっており、2千年以上の古い歴史があります。構造的には西洋のフルートや日本の篠笛と同じような形をしていますが、それらよりもずっと太くて長く、一般的に使われているものは50〜80cm程度あります。素材はアッサム竹という非常に節間が長い竹で、肉薄なせいか持った感じはとても軽いです。
バンスリと言えば、インドではヒンドゥー教の神様、クリシュナ神の持ち物として有名で、クリシュナ神の絵画や像を見ると、たいていこのバンスリを持っています。ヒンドゥー教では、シヴァ神が破壊を、ヴィシュヌ神が世界の維持を司る神であるのに対し、クリシュナ神は、愛・喜び・美しさ・恋など、芸術的なもの、官能的なものを象徴している神ですので、ことのほか人気があります。
有名な叙事詩「ラーマーヤナ」や、抒情詩「ギータ・ゴーヴィンタ」などに、クリシュナ神のいろいろなエピソードが歌い上げられていますが、その中でもクリシュナに関する最も有名な物語、牛飼いの乙女達との若き日の戯れの中に、このバンスリは出てきます。
「ラーダと呼ばれる娘にすっかりほれ込んでしまったクリシュナは、ある日、若い乙女たちがヤムナー川で水浴びをしているときに、乙女たちの服を盗んで木の陰に隠してしまいました。クリシュナは横笛を吹くことによって乙女たちを呼び出し、乙女たちがひとりずつ祈りのように手を合わせ出てくるまで、服を返しませんでした。」
牛飼いの乙女たちを月光の下に呼び出すクリシュナの横笛の音色は、それを聞く者すべてに天上の喜びを与える、崇高な神の声を象徴するものだと言われています。そして、その横笛こそがこのバンスリなのです。
前置きが長くなりましたが、もともと私自身は、地域のお祭りで巫女舞の後ろで神楽笛を吹くのを趣味としている人間で、インド音楽にはまったく知識がありませんでした。それが、通販でたまたまバンスリを見かけて買ってみたら、その深い音色に魅せられ、クリシュナ神の魔力のせいか、次から次へと10本以上買ってしまいました。
硬くて肉薄の竹でできているので、低い音を出すと、自分の指に音の振動が伝わってきます。篠笛ほどの透明感はありませんが、深くて温かみのある音色は、何とも言えない素晴らしいものです。クリシュナ神を思わせる名演奏はできませんが、静かにメロディーラインを追ってゆくと、瞑想の境地に入ってゆきそうになります。