世界の民俗楽器と伝統音楽 〜インド〜

世界の民俗楽器と伝統音楽 〜インド〜 R2年


1.北インドの南インドの違い

インドはとても広い国です。北の方に住んでいる人たちは、地中海沿岸からアラビア半島を経て西アジアに移住したアーリア人で、コーカソイドつまり白人に分類される人々です。一方南の方は、インダス文明を築いたと言われるドラヴィダ人で、背が低くて肌の色もかなり黒く、オーストラロイドつまりポリネシア人に近い人々です。そのせいか、伝統音楽に関してもかなりの違いがあり、北インドのものはヒンドゥスタニー音楽(上の写真)と呼ばれ、楽器もバンスリ、シタール、タブラ、サーランギ、サントゥールなどが主体であるのに対し、南インドのものはカルナータカ音楽(下の写真)と呼ばれ、楽器もボーカル、バイオリン、ムリダンガムなどが主体となっています。

また、北インドの音楽は楽器のアンサンブルが主で、瞑想的な即興音楽が多くを占めます。それに対し、南インドではボーカルが主体で、メロディーの決まった歌が歌われることが多いです。どちらも音楽の基本的な部分には、ラーガと呼ばれるメロディーの旋律規則と、ターラと呼ばれるリズムの規則があり、両者ともとても複雑ですが、これがインド音楽のインドらしさの源です。 西洋の音楽は長調と短調(短調は3種類ありますが)だけでスケールはとてもシンプルなのですが、ラーガには非常に多くのスケールがあります。また、真夜中のラーガ(ミ♭・シ♭を使う)、夜明けのラーガ(レ♭・シ♭を使う)、日の出のラーガ(レ♭・ミ♭を使う)など、時間によって使うラーガが決まっており、季節によっても違いがあります。リズムは16拍子(4拍X4)が主体ですが、5拍子から15拍子までバラエティーに富んでいます。

2、シタール

シタールは、北インドでとてもポピュラーな弦楽器です。共鳴胴はヒョウタンやカボチャを乾燥させたもので出来ており、弦をはじくのには、人差し指につけたミズラブと呼ばれる爪を使います。弦は金属弦で19本くらいとたくさんありますが、弾くのは7弦だけで、他の10数本は単なる共鳴弦です。しかも、メロディーにはほとんど1弦しか使いませんので、弦がたくさんある割には、単音楽器に近い弾き方をする楽器です。フレットは移動式なのでネックの横には固定ネジがいっぱいあり、弦の本数も多いので、楽器の周りはネジだらけです。

ビートルズが「ノルウェーの森」をはじめいくつかの曲でシタールを使い、ローリングストーンズもそれに追随して取り入れたので、1960年年代後半、ラーガロックなどと呼ばれて世界的に流行した時代がありました。

3.バンスリ

バンスリは、インドでは愛・喜び・美しさ・恋などを象徴しているヒンドゥー教の神様クリシュナ神の持ち物として有名です。アッサム竹と呼ばれる節間がとても長い竹で作られた横笛で、北インドのヒンドスタニー音楽では主にメロディーを担当しています。 20cmぐらいから1mぐらいまで、いろいろな音程のバンスリが市販されていますが、プロの演奏家は70〜80cmぐらいのバンスリ(西洋のC〜Aキー)あたりを使うようです。西洋のフルート(Cキー)とそれほど大きな差がない音程なのですが、太さがはるかに太く、材質も金属ではなくて竹なので、とても深くて柔らかい音がします。

現在作られているバンスリは、ほぼ西洋の平均律に合わせてあるので、ジャズやポップスなど、世界的にいろいろなジャンルで使われており、私もコンサートでちょっと吹いたりしています。通販で1本数千円〜1万数千円程度で買えますので、私も10数本所有しており、中くらいの長さのバンスリまでなら、横笛が吹ければすぐに吹けるようになります。ただ、さすがに長いバンスリだけは、指がなかなか届かないので難しいです。

4.タブラ

タブラは北インド伝統音楽で使われる太鼓の一種で、低音と高音の2種類の太鼓をペアで並べて使います。胴は、高音のタブラは木で、低音のタブラは銅か真鍮の金属で出来ており、壷の形をした胴体の上にヤギの皮が張ってあります。皮の真ん中付近に、鉄粉を穀物の粉などと練りこんだスヤヒーと呼ばれる黒いものが塗り付けられていることが特徴で、これによって多様な音色を作り出すことができます。右手では右の太鼓(高音)のみ、左手では左側の太鼓(低音)のみを叩き、指を駆使して、右手で5種類ぐらい、左手で3種類ぐらいの音色を出すことができます。

5.サラスヴァティー・ヴィーナ

さて次は、南インドの方に行きましょう。ヴィーナという言葉は古代インド音楽の撥弦楽器の総称なので、広い意味では北インドのシタールもヴィーナの一種ではあるのですが、一般的にはヴィーナは南インド古典音楽で使われる撥弦楽器のことを指しています。ヴィーナにはいろいろな種類がありますが、何と言っても有名なのは南インドのサラスヴァティー・ヴィーナです。

シタールにちょっと似ていますが、ヴィーナはどれもネックの上の方にふくべ(共鳴器)が付いているし、フレットも固定で弦も多くないので、簡単に見分けられます。弦は7本あり、爪に金属製ピックをはめて演奏しますが、演奏弦は4本で、残りの3本は単なる共鳴弦です。

サラスヴァティーは、ヒンドゥー教では水と豊穣を象徴する女神で、神様自体が中国を経て日本に伝わり、日本では七福神のひとりである弁財天として親しまれてきました。弁才天は琵琶を持っていますが、本来のサラスヴァティーはヴィーナを持っていたというわけです。

6.ムリダンガムとバイオリン

ムリダンガムは南インドの伝統音楽には欠かせない打楽器で、両面太鼓なのですが左右の打面の大きさが少し違っています。写真の左側のように、演奏は膝の上に載せて手で叩き、右手は小さい打面で高音、左手は大きい打面で低音を担当し、両方の組み合わせで複雑なリズムを作り出します。 また、南インドのカルナータカ音楽では、バイオリンがきわめて普通に使われています。どうしてインドの伝統音楽にバイオリンが出てくるのかよく分かりませんが、おそらく何らかの古い弦楽器の代用品として、いつの時代からか使われるようになったのでしょう。ただ、持ち方が西洋とは全然違っていて、写真の右側のように、バイオリンを膝の上に置いてネックを下の方にして弾きます。これが、インドの正しいバイオリンの弾き方です。実は、このバイオリンの逆輸入はアラブ音楽でも起こっており、エジプトからモロッコのあたりでも、アラブ音楽にバイオリンがしばしば使われています。アラブのバイオリンは、楽器の持ち方だけでなく、弦のチューニングまで西洋とは違うらしく、いろいろ面白いです。

7.プーンギ

最後に、ちょっと毛色の変わった楽器を紹介しましょう。プーンギと呼ばれる、蛇使いの笛です。この笛は、いわゆる古典の伝統音楽に使われることはなく、呪術に使われるような民間の笛です。 ヒョウタンに竹が2本付いた形をしており、クラリネットやサックスのようにリードがあるので、単に吹くだけで音が出ます。2本の竹のうち、長くて穴の無いのが低い基音を出し続けるドローン管で、穴のあるのがメロディーを奏でる管です。蛇使いは、循環呼吸(鼻から吸いながら口から吐く)で、止まることなく笛を吹き続けます。

余談ですが、インドでは10数年前から野生動物保護法が厳格化されたため、コブラの捕獲は事実上不可能となり、蛇使いも激減しているという話です。